蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

カボチャの冒険(五十嵐大介/竹書房)

★★★半
今読むべきマンガと、今後読み次がれていくべきマンガっていうのがあると思うのだけど、五十嵐大介のマンガは今後読み次がれていくべきマンガだ。内容に普遍性がある。時節に影響されない強さがある。本作は作者が共に暮らす猫「カボチャ」の、田舎暮らしを描いたエッセイ。田舎暮らしといえば『リトル・フォレスト』(講談社刊)が記憶に新しいが、本作では都会の部屋猫だったカボチャの視線を通して山村の生活を描く。簡素だが生命感にあふれた線が魅力。『魔女』に顕著だけれど、五十嵐大介の線には呪術的な生命感を感じる。本作にもそれは十分に渦巻いている(なるほど、書いてみて気がついたけれど、渦巻きがキーかもしれない。彼の線はいたるところで静かに渦巻く)。
カボチャの猫らしい甘えっぷりも楽しいが、第11話の「猫語」冒頭での「カボチャはたぶん猫語が話せない」という一節にすこしドキッとする。人としか暮らしたことのない家猫だから、当然、猫語を学ぶチャンスがなかった。しかし、人語を解すわけでもなさそうだ。その理由がふるっている。飼い主である作者もまた、カボチャには「にゃー」としか話しかけていなかったのだ。せめて人の言葉で話しかければよかったと悔いる作者も楽しいが、しかし本作を読めばカボチャと作者の意思がちゃんと通じ合っていることが分かる。大切なのは通じさせたい気持ちや意思なんだろうな。あまり気負わずに読める一冊だが、大切なものがちゃんと詰まっている素敵な本だ。

カボチャの冒険 (バンブー・コミックス)

カボチャの冒険 (バンブー・コミックス)