蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

遠まわりする雛(米澤穂信/角川書店)

★★★半
「古典部」シリーズ第四弾は近頃流行りの仮フランス装で刊行された。最近部数を伸ばしているから、こういう工賃のかかる製本ができるのだろう。しかし、内容からして高校生辺りが本来のメインターゲットのはず。ならばやはり文庫本での刊行が正しいのではないか。いつもポケットに文庫本、それが正しい学生のスタイルである
。古いだろうか?
(うざいなあ。乗客が喧嘩を始めたよ。いま終電なり。)
さて、本書は「古典部」シリーズ4冊目の単行本にして短編集。古典部の面々が高校に入学してから翌年の春に至るまでの一年を追いかけている。データベースを自称するふくちゃんの苦悩?を描く「手作りチョコレート事件」が秀逸。また、和やかな日常に隠れた苦味を明らかにして幕をひく「正体みたり」はいかにも米澤らしい一本
。そしてシリーズの今後に向けて、冬の気配を残しつつ春を提示する表題作「遠まわりする雛」が直前作の「手作りチョコレート事件」を引き受けつつ柔らかに本書を締め括る。
推理ゲームとしてのミステリを楽しむ向きには、第60回推理作家協会賞短編部門の候補作となった「心あたりのある者は」が古典的なアームチェア・ディテクティブものとしてお勧めだが、やはり本書の良さは青春のほろ苦い(笑)一日を描く、前述の「手作りチョコレート事件」に結実する。語り手が謎解きの果てに苦々しい結末へ
至るという、「妖精」や「夏期限定」、さらには「ボトルネック」などのいわば失楽園ものの雰囲気を漂わせつつも、訪れる未来を感じさせる幕の下ろし方がいいし、実際にそれは次の短編「遠まわりする雛」に拾われていく。
ベタベタに甘くしろとは言わないが、青春だなんていう季節くらい、いくらかの甘さを味わったっていい。米澤ブランドのラノベとも考えられる本シリーズ。今後の展開が楽しみだ。
しかし、次作が出る頃には幾つになっているんだろう、僕は。

遠まわりする雛

遠まわりする雛