蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

インシテミル(米澤穂信/文藝春秋社)

★★★
遠まわりする雛』よりも先に読んでいたのだが、記録を忘れていた。これまでの著者の各シリーズとは別路線の書き下ろし。西島大介のカバー画が光っている。
妙な求人に引っかかって集まった12人の男女。とある実験ということで、地下の閉鎖環境に軟禁されるが、そこで彼らを待っていたのはバトルロワイヤルを誘引するような過酷な環境設定だった。疑心暗鬼をあおる地下施設の名前は暗鬼館。およそミステリの枠組みとして好んで使われるさまざまなテーマを盛り込んだ、ミステリに淫してみた実験作。しかしこれ、何重ものメタな構造でミステリに淫していて、その一番外側にいるのは読者の僕たちという。
西澤のミステリの特徴といえば苦味だと思うのだが、この作品においては苦味はそれほど強くない。ミステリに淫するというテーマを忠実に守って、どうもその構造で終わってしまったような感も...。
地下閉鎖空間における拘束とサバイバル、という点で、読んでいる最中に小川一水の『ギャルナフカの迷宮』を何度も思い出してしまった。設定としては結構被っていると思うのだが。理性の働きどころの違いというか、働かせどころの違いが面白い。ギャルナフカでミステリ的な事件が起こったら、いったいどうなることか、それも興味があるけど。

インシテミル

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