蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

キリン(1〜4巻)(東本昌平/少年画報社)

★★★★★
Point of No Return編読了。「キリン」の存在は知っていて、ところどころ立ち読んでいたりしたのだが、通して読んだのは初めて。これほど熱いマンガだったとは!
38歳になるバツイチの不完全燃焼男が、カタナで長年のライヴァルである「でか尻女」ことポルシェに挑む。全編に漂う激しい苛立ち、get no satisfactionなくすぶりがいい。人生の折り返し地点を意識した中年にさしかかった男が、それまでの生き方に一つの区切りをつける。あえて旧型の、操りにくいバイクでポルシェに挑む。要するに文脈としては完全にハードボイルドのそれで、R.B.パーカー風に言えば、「何を為すか」でなく「どう為すか」を追求した作品だ。人生の折り返し地点、老いの意識、そこからは村上春樹の短編を思い出すのだが、春樹のナイーブな主人公と異なり、東本の描くキリンは終始苛立ち続ける。若さへの憧れ、嫉妬、老いへの不安、不快、安定への恐怖感。これらを抱えて、一つの区切りとして走る公道バトルの胸を締め付ける疾走感にしびれないなんてことはありえない。ゾクゾクしながら、次々と書店で買い足して読んでしまった。
バイク乗りに限らず、満たされない欲求不満の日々を送る不完全燃焼なオヂ必読の書。