蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

NovelJam 2018傍観記

NovelJam 2018初日

2月10日、小説のハッカソン「NovelJam 2018」が始まった。NovelJamは昨年初めて開催され好評を得て、今年も再度開かれたセルフパブリッシャーのお祭りだ。八王子の山中にある大学セミナーハウスが会場で、コンクリ造のこの建物群はそのまま館ものの舞台にしか見えず、事前から話題を集めていた。

今年のNovelJamは8チーム計32名が3日間で執筆から電子書籍の作成までを行う。1チームは作家2名、編集者1名、デザイナー1名にて作られる。作家と編集者のマッチングについては当日まで伏せられていたが、編集者からプレゼンを行った後に「編集者への投票を行い、そのあとマッチングしなかった方でくじ引きする方式」(合コン方式との評あり)が採用された。チーム分けについては公式のtwitterが報じている

お題発表

執筆にあたっては運営からお題が提示され、そのお題を盛り込んだ作品作りが課せられるしくみだ。理事長渾身のパフォーマンスと共に発表されたお題は「平成」。そのままでも、意訳でも、平と成にばらしてもいい。昨年のお題は「破」で、いかにもスタートアップなイベントのフレッシュネスに溢れていたが、今年は完全に想定外だった。カタカナの付け入る隙もない。そして鷹野さんそれ今の若者にはわからないよ多分。

三木一馬氏講演

夕方に予定されていた講演の講師である(株)ストレートエッジ代表、とあるラノベの神編集者である三木一馬氏さんがすこし早く到着されたようで、繰り上げて講演が始まった。これは贅沢なことにニコ生でフル配信されている。

  • 「読者は平成には興味はないだろうが、平成のキスには興味をもつかもしれない」
  • 「1秒で作品を紹介するログラインを決めたい」
    (TVアニメ版「エロマンガ先生」は紗霧をひたすら可愛く見せることを決め、製作上迷ったらばそれに従った)

などなど、お題に即したアドバイスを含めて豊富な経験に基づく実用的な話が続く。業界の頂点からノウハウを交えた神の声が降ってくるのだから、チームを作ってこれから作品を起こしていこうという一同にとってはある種の呪文なのではないかと放送を聴きながら心配になって飯が旨い。

夕食〜カレージャム

NovelJam 2018開催中、3食が運営から提供される。夕飯はポークチャップか。プラスティックの五角形のトレイ、御飯と味噌汁にメインに小皿と、学食や社食を思い出させる配膳が妙に好感を呼ぶ。ひじきがよい。

なおこのころtwitterのタイムラインにハッシュタグ #カレージャム が流れていることに気がつく。おお、なんだそれ。

唐突にランディングページ出来ましたとのツイートが目に入った。

リンクを辿るとカレーが全く登場しないおしゃれなランディングページが現れる。カレーを作って公開しあうやつか。NovelJam応援のための勝手企画のようだ。頗る面白そうだ。

隙間社さん他が早速カレーを作り始めている。ろす氏は夕食用に作っていたカオマンガイの他にバターチキンカレーを作り始めた。すごく美味しそうで昂る。

カレーは概念でもいいのだ、いっそなんでもいい。ハッシュタグさえいっしょであれば、というような追加ポストがあり、昨年のNovelJamで大活躍したイラストレーターの松野さんが、次々におもしろカレージャムポストを投下し始めて笑いが止まらない。

こちらは昨年のNovelJamで藤沢チヒロ氏が担当した「輝家魔法的肉包子店」ネタか

セミナーハウス殺人事件シリーズ

私もちょっと便乗させてもらって、超久しぶりにnoteに一本書いた。メインの情報量が減った分、カレージャムの流れが俄然面白くなり、追い続けているうちに寝落ちする。我が家に流しのギター弾きは現れず1日目終了。

チェックポイント

さて、ちょっと時間を戻す。

NovelJamには上記のようにチェックポイントというシステムがある。進行の各段階で運営にその時点の進捗を報告しオープンにするのだ。執筆の遅れが小説書きのダイナミクスだとしたらば、チェックポイントは極めて合理的な緊箍児である。

チェックポイントにかかるタイムスケジュールは以下の通り。作品は2度のチェックを経て完成へと向かう。この間デザイナーもデザイン案を練り、最終段階では電子書籍として完成されてBCCKSにて公開されるという手順となる。

  • 1日目(2月10日)
    • 22:00 プロット提出(チェックポイント1)
  • 2日目(2月11日)
    • 15:00 初稿提出(チェックポイント2)
    • 18:00 初稿戻し提出(チェックポイント3)
    • 22:00 2稿提出(チェックポイント4)
    • 24:00 2稿戻し提出(チェックポイント5)
  • 3日目(2月12日)
    • 08:00 最終稿提出(チェックポイント6)

各稿はGoogleDriveに収められて公開されるので、誰でも確認出来る。プロットは以下に収められているので、覗いてみると面白い。

夜、(たぶん)我慢できず書いちゃった人たち

22時のチェックポイント後は、就寝したり、酒を飲み始めたり、ギターをもって流しに出かけたりとそれぞれの夜が更けていったようだが、著者枠外で参加して我慢できなくなったと推察される投稿がちらほらと見えた。

前回は編集枠で入っていたのに今回デザイナー枠で参加した波野發作氏はその日のうちに習作(?)を破滅派サイトにアップしている。また編集枠で参加しているハギヨシ氏も、著者へのプレッシャーとして夜のうちにエブリスタへ新作を投げつける。こうしてイベントは加熱しながら、無事翌朝を迎えた。館ものの事件は、どうしたというのだろう。今夜か。

波野發作氏の【NovenightJamanight】フラウンダー・ウィズ・デイス
ミステリ仕立てのこの作品、<ネタバレ>IMEに頼ると確認が難しい</ネタバレ>。

hametuha.com

ハギヨシ氏のスーパーフラット・パンデミック
r.estar.jp

おまけ、セルフパブリッシングについて

最後に誤解のないように書き添えると、セルフパブリッシングにプロ・アマの区別はない。昨年はまさかの大御所新城カズマ氏が参戦し、「大人気なく」(by 藤井太洋氏)最優秀賞をかっさらっていた。

ジャンルを問わず既存の出版は品切れ・絶版になる回転が年々高まり、売れる売れない以前に市場に作品が残らない。さらには市場たる書店も減少の一途を辿っており、読者が未知の作品に触れる機会自体が圧倒的に少なくなっている。

そこでKindle Direct Publishing等のサービスを利用したプロ作家による個人出版が注目を集めるようになった。詳しくは鈴木みそ氏『ナナのリテラシー』(エンターブレイン)あたりにあたってほしい。2018年2月11日現在、Kindle版1巻が無料で読める。これからの市場をどう作っていくかについては、プロもアマも無い。同じ舞台で戦える環境はすでにある。

NovelJamが画期的なのは作家が出版活動をすべて行うのでなく、編集とデザイナーという製作者を入れたことで、セルフパブリッシングの持つ弱みを克服しにかかっていることだ。書く作る売る、三拍子そろった藤井太洋氏のようなマルチタレントは稀で、餅は餅屋に任せた方が出版を考えると有利だろう。今年のNovelJamは後日NobelJam2018グランプリが予定されており、そこでは作品の内容だけでなく、販売部数も加味して審査されるという。

マーケティングまで視野に入れた活動が必要となるわけで、売りの戦略をチームで立てる必要が出てくる。売上については昨年米光一成賞をとった『スパアン』が他より高い値付をしてリターン率を上げたような戦略も見習う必要があるだろう。必要なものは書き続けられるエコシステムだ。作り売り、そこで得た反響と評価と売上を糧にまた先へ行くのだ。

なーんて。最後だけ嘘くさくなっちゃったけれど、やっぱり読まれないと、書いた甲斐がないよね。NovelJam 2018の作品販売が始まるのは明日の午後。観戦を楽しんだら、ぜひ買って読んでくれよな!

※傍観レポートを書くにあたり、NovelJamならびにカレージャムに参加されている方のツイートを紹介させていただきました。不快に思われた方は twitter @arith までご連絡下さいませ。削除いたします。