蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

妙なる技の乙女たち(第6話)(小川一水著/ポプラ社)

★★★半
月刊 asta* May 2007 Vol.7 収録。asta*自体を見つけたのが昨日、ポプラ社だから児童書、という思いこみがあったのだがどうしてこれがすばらしい内容。浅暮三文小川一水が並んでいるあたりでもう胸ときめき心躍っているわけだが、大森望むの書評はあるは、鼎談の「恋愛小説ふいんき語り」(麻野一哉、飯田和敏米光一成)の指摘「実はこのひと(『センセイの鞄』のツキコさん)の語っていない部分って、すごくダークなんじゃないか」は面白いは、濱田美里の「聞き書き日本の台所」のにしみじみしたり、今のところ読んで捨てるところなしの内容なのだ。これがフリーっていいのか? とありがたく読ませていただい
ている。
さてなかなか表題に辿り着かないが、小川一水の連載も既に6話目ということで、前の5話を読めなかったことが悔やまれる。本作は近未来のインドネシアを舞台に腕に技持つ女性たちを主人公に据えた短編の連作だが、今回はアーターム(Art Arm)と名付けられた触覚フィードバック装置付きの巨大なマニュピレータを操る彫刻家が登場。インドネシアが打ち上げる予定である天王星以遠を探査する“船”の船首像の製作を依頼された主人公は色々な悩みを抱えつつ作品を仕上げてゆくが、様々な苦悩もまたそこにはあった。はたして装置を使っての作品づくりは芸術と言えるのか。人種と文化の混ざりあった国において、その国を象徴する作品とはいか
なるものとなるのか。そして恋愛感情を持ったまま創作は可能なのか。やがて完成する作品に込められた小さな謎とは、彼女の恋愛と仕事の行方とは。
インドネシアという土地の設定がいいし、創作と恋愛に悩みつつ、それに負けず積極的に仕掛けを仕込んでいく主人公が実にチャーミング。いくらでも膨らませることの出来そうな内容をきっちりと短く納めつつ、宇宙への思い、創作への情熱と悩み、恋愛の喜びと不安などがきっちり盛り込まれていて、作家が成長していることをひしひしと感じる。どんどんうまくなっていると思います、小川一水