★★★★
空中戦の描写が圧巻。読んでいて臨場感が物凄い。飛行機の構造については疎い自分でも、機体が空を飛び回る様がリアルに目の前に描けるのだから、相当なものだ。草薙の物語も三作目にして相当に見えてきて、物語としても読者としてだいぶはまってくるところ。草薙とティーチャの関係、草薙が飛ぶそのいじましさ、大人の汚さ。草薙が本当の空、と呼ぶ雲の上の世界と、その下の湿気た街の空の息苦しさ。そうした中でダンスする二機の飛行機がとにかく肌に鳥肌たたせる。朝の東京駅で、電車から降りて止められなくて、そのまま腕をそばだたせながら読んで歩いた。そんな一冊。飛行機が如何に飛ぶか、飛ぶということについて、どんなにそれが自由なのかということについて、書かれた小説として僕が知る中では一番。
ちなみにハードカヴァー、ノベルス、文庫とあるが、装丁はこの文庫が一番美しいと思う。ハードカヴァーはモノとして美しいけれど、読書向きの装丁ではないし、なにより傷つきやすい(モノとしては、この中で一番美しいと思う)、ノベルスは鶴田謙二の挿画が素敵だけれど、これは美しいという性格ではない(でも、草薙水素のイメージは、もう鶴謙の画で固定されてしまったけど)。ファンは全て買うべし、というばかりの展開は本当にずるいと思う。
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/11
- メディア: 文庫
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