蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

愛人[AI-REN](1〜5巻)(田中ユタカ/白水社)

★★★★半
白水社のアニマルでの連載終了が2002年。あれから5年経って、単行本で一気読みしたのだけど、よかった。ほんっとうに良かった。作者が連載終了後、一時描けなくなったのも分かる、そのくらい集中した重い仕事だった。4巻から5巻にかけての、圧倒的な暴力と絶望の中での、「生きる」こと、「愛する」ことへの真摯な叫びは、どこまでも胸を突いてくる。もともとが美少女系のエッチマンガ家である田中ユタカが、生を描こう、と決めてはじめた連載だったから、どうしても死という不条理に向き合わなくてはならなかった。暴力という悲しみに向き合わなくてはならなかった。宗教はなかったから、人間の矮小なまでの、ちっぽけな生から世界を叫ばなくてはならなかった。愛を叫ばなくてはならなかった。性を知って生を得て、そして死も得てしまう、そういう過程の中でどうやって死んでいくか、それは、どうやって生きていくかという問いの裏側になっていて、最終巻はそんな主人公たちの生がいかに終わるか、いかに続いていくかを描く。今考えてみれば、連絡が始まったのが1999年。世紀をまたぐ連載であったけど、それはちょうどポストEVAな時期であって、あの救われない話に対しての、こんな回答もあったのだと、勝手にリンクさせてしまったりした。絶望を描くのはやさしい。でも、絶望を見据えてその先の希望を、その先の生を描くことは難しい。田中ユタカはそれに見事に成功していて、泣かされる。ただのロリ系エッチマンガじゃない。愛と生へのまじめで真っ当なエールだ。

愛人 5 (ジェッツコミックス)

愛人 5 (ジェッツコミックス)