蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

失楽の街(篠田真由美/講談社ノベルス)

☆☆☆
講談社ノベルスより刊行が続いてきた「建築探偵桜井京介」シリーズ。本書はシリーズ最新刊であり、また第2部の完結編。「蒼」を主人公とした番外編を入れればシリーズの14冊目となる。
今回は東京都内が主な舞台。同潤会(本書内では朋潤会)アパートがテーマの中央に据えられる。同アパートは歴史に名を輝かせる名作だが、老朽化を理由に次々と解体されたいったことはまだ記憶に新しい。表参道にそって実にいい雰囲気を出していたあの古びたアパートがその同潤会アパートの一つだ。歳を経た建物のみが醸し出す、独特の雰囲気がいい建物だった。建物というよりも、もはや風景に近かったが。(その辺が、僕と建物の「距離」なのだろう。)作中にも登場するように同アパート(群)の保存の為の運動もかなり精力的に行われたが、空しくもアパートの保存は実らなかった。ただし研究所はかなりあるので、今後の参考資料、歴史資料には事欠かないはずだ。
作中アパートの中庭に咲く桜が実に印象的だが、このあたり、既刊の短編集「桜闇」 (ISBN:4061820680) を彷彿とさせる。最後の短編も確か花咲き乱れていたはずだ...。作者の中で桜井京介/桜の印象が強いのか? いずれ影のある美青年桜井を強調して已まない。
さて、本書で第2部完結ということではあるが、建築探偵シリーズが完結するわけではまだない。桜井京介の過去は未だ暴かれず、これまでの謎は謎のままだ。本書のわずか1ヶ月前に刊行された番外編「Ave Maria」にてもわかるように、蒼の成長物語は一段落き、いよいよ桜井京介の物語として第3部は幕をあけるのかと期待する。しかし、あとがきにもあるように、以前から予告のあったヴェトナムに著者はまだ行けてない様子。次作はしばらく待たないといけないようだ。


失楽の街

篠田 真由美

発売日 2004/06/08
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