蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

少女は踊る 暗い腹の中踊る(岡崎隼人/講談社ノベルス)

★★★半
好みではないがもうどうしていいか分からず引き込まれる強烈な前半に星半分プラス。脇役で登場する書店員が「強烈なグルーブ感が」あると言って主人公に本を紹介するのだが、前半はまさにそんな感じ。 ページから離れることが出来ないというか、勢いでずばばばっと読んだ。後半はちとだるい、というか作中のキャラクタたちが小説に流されている感があるが、なんにしてもメフィスト賞を受賞するだけのことはある。ノワール小説だから(?)正直救いのない話ではあるが、妙な共感を生むグルーブ感がいい。初版の帯にある「凄惨だけど爽やかです」の一文は偽りあり。爽やかではないぜ。というのも主人公がなかなかに割り切らないままに進むからだな。暴力の嵐が吹き荒れるが前半部の主人公の指向性の高さは救い。中盤から皆が狂っていくというか、強烈な過去に引きずりまわされるあたりから感情的にも矛盾を感じちゃって残念。虐待方面にブチ切れな主人公が虐待に平行な行為に突き進むか、というあたりがまぁリアルなのだがどうかな、というところ。そのくらいに蒼以にイッちゃってるてなことなのだろうけど納得はできず。
しかしウサガワの言動といい、蒼以といい、多分に維新の影がちらつくぜ。爽やか、という点では維新の方が爽やかだな。行為への耽溺というか、維新はもっとさらっと宿命的なのよ。それはそうだからそうだ、という形で、悩むのはいーちゃんだけ、あとは悩む余裕もなく皆それぞれのカルマを生きている(いや、いーちゃんだってホントのところはなやんでいるのかぁーって思うけどな)。本作はもっと血飛び肉爆ぜるぐったり重い描写だらけで暴力性ではある意味維新以上だけど、その暴力に理由がありすぎてそれが重い。例えば、『零崎双識の人間試験』を読むと一目瞭然なんだけど、殺人鬼はもう生得的に殺人鬼で、それ以上でもそれ以下でもなくて、髪を切るみたいに、爪を抓むように人を殺すのよ。本作はまずもって皆理由に縛られて狂っていて、それが重いのだな。もちろん、そこが良さでもあるのだけど。ご都合主義的な終盤はどことなくナチュラルボーンキラーズを思い出した。グルーブ感溢れる血みどろな青春ノワール小説が読みたい人にはお勧め。確かにこの噴出す暴力性は十代のアレだよ、うん。ニルヴァナだね。猟奇的な殺人法にぐったりする人にはかなり不向き。僕は小さな子供を持っているので、中盤からは特に意識しないと辛かった。でも、確かに人をひきつける。そこがこの小説の魅力。

少女は踊る暗い腹の中踊る (講談社ノベルス)

少女は踊る暗い腹の中踊る (講談社ノベルス)


と、他のサイトも見てきたぞ。

少なくともミステリ向きの思想ではないので、今後は純文あたりで活躍していただきたい。

うんうん、ミステリじゃないよね。ぜんぜんミステリじゃない。ちーっともミステリじゃない。やっぱりアレよ、十代の汗のかほり濃密な不能者のあるいは出力先のない力の...おおっとぉ、そうか、欲求不満が爆発した、そういう小説ですわ。だから、読んでいて懐かしいのね。こういう不満感、行き先のないどろんどろんな感情って確かにあったもんなぁ。ということで、本作はよし。でも、次作はこのままじゃ飽きるだろうな。インディーズのパンクバンドの勢いみたいなもので、技とかつけないと後は辛いと思った。まる。