蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

『とらドラ!』について少し考えてみた、を読んで更に少し考えてみた

※途中で誤ってアップしてしまった。済まん。
※酔ッテントリ*1です。
含むネタバレ

id:y_arim氏の「『とらドラ!』について少し考えてみた」がホッテントリ入りしていたので早速ほいほい読んでみた。『とらドラ!』は一連の「盛るぜぇ」MAD>アニメ>原作と、実にアレなコースで辿り着いてはまった年末の一大エンターテイメント作品だった。アニメは時間をとれずに録画したままになっているが、こちとら鎌倉と神田を往復する毎日を送っている。車中の時間は売るほどあるのであっという間に既刊を読破した。ラノベだしな。早い。
序盤のかったるさはあるが、主要キャラの内面がつまびらかにされるに従って物語も単なるコメディから青春ものの色合いを濃くして疾走感と焦燥感が出てくる。大河の父親が登場するあたりで恋愛要素よりもビルドゥングス・ロマン的な方向へこちらの関心は転んでいく訳で、メインキャラの恋愛よりもむしろこいつら(人生を)どうするんだと緊張してページを繰っていった。さて、表題の件:

 と元増田氏は仰るけれども、むしろ「自分ひとりで解決して乗り越えざるを得ない哀れな子供たちの物語」と読めはしないだろうか。この作品において、明示的に登場する保護者は誰ひとり保護者として機能していない。大河の家庭は典型的な機能不全家庭であり(アニメ版1話で、改めてヴィジュアル化された彼女の自宅と寝室の描写には寒気がした。いったい、あの状況がネグレクトでなくて何であろうか?*1)、竜児も父親に「勝ち逃げ」(あらかじめ死なれていたら父殺しもできない!)されてやっちゃんと共依存状態。案外まともな大人をやっているのが実は独身(30)だったりする有り様だ。

竜児と大河は、依存的な関係を退け、文字通り「竜虎並び立つ」関係を目指している。なるほど、対人関係についてのきわめて現代的な問題意識が主題となっているという点では元増田氏と見解が一致するところである。

(以下、アニメは半端に数話しか見ていないので原作をベースに書いている事を了解願いたい。)
この辺から話をしていきたいのだが、批評の文体も技術も持っていないので、感想ぐらいに読んでほしい。
この日記を書いている時点で原作は9巻。ようやく実乃梨も北村も(ついでに委員長も)一段落して(こいつらが落ち着かんと先に進まない)、いよいよ竜児が自分の大切な物・事に気付いて大河とも確認し合えて、さて、というところで大河母登場、どうにもならん親父に続いて今度は母かよ! という所。合わせて竜児まで、これまで抱えていた(故意か無意識にか、作者が語らずにいた)母親への怒りを吐き出すというクライマックス。
id:y_arim言う所の母子「共依存環境」へのようやくの叛乱と相成ったところで「次巻お楽しみに」とお預けを食らっている訳だ。
大河については自己中心な「大人になれなかった」おっさん*2との精神的な決着が(ある程度)ついた所に、いやまぁ、これまでの状況から、そしてこういうおっさんを親に持っている以上当然なのだが、更に面倒くさそうな、おそらくは無為に無駄に強烈にしつこく親権を主張しそうな無責任な母親が登場して、ささやかな閉じた世界に突き刺さっていた楔の一つであるそれを、改めて認識させられて絶望、という場面。
竜児についても、この物語でおそらく初めて、竜児が大人であろうとすることを止め、母親への内在していた疑問と不満を噴き出させた(そしてようやく、ようやく母親に子の特権として傷をつけながら甘えた)瞬間が訪れている場面。
正直、ここでの感想は、うわ、ここへ来て「小さな恋の物語 メロディ」か! というものだった。だって、逃げてちゃしょうがないだろう。おそらく、竜虎ばらばらであれば、それぞれに対処したはずなのだ。しかし、二人がそろっていた為、しかもお互いの想いを受け入れた後だった為に、手に手を取り合ってトロッコを、じゃなかった深夜の路地をかけて逃げる事になってしまった。
大河ははじめから問題だらけの設定だったからまぁいいのだが、竜児は主夫を引き受けた「できた子」である。この物語で、病理的な読みをすれば亜美とともに最も深いものを持った一人だったのだ(と僕は科学的根拠は無いが思っている)。それが今逃げてしまった。もちろん、この後10巻で再度対決する事になるはずだ。そうでなければこの物語中盤から盛り上がってきたビルドゥングス・ロマン的な展開が無駄になってしまう*3
ようやく引用に言及出来る所まで来たかな? 酒が回ってなんだか分からなくなっている僕であるが。
えーと。
竜児と大河が出会った事、そこでは、

  • 大河からは:幸いにして竜児が機能的に大河の親役を務められるスキルを持っていたため、常に(無意識にしろ)持っていた父親から得られたはずの愛情への欲求を満たす事が擬似的に可能になったこと。
  • 竜児からは:父親がいない竜児が、自らが父親役になる事で、それを逆説的に代行出来る相手を見つけた事。本来自分が父親から得られたはずの愛情への欲求を、自己回帰的に満たす事が可能になったこと。

という、竜虎相立つといいながら己の欠落を補え合える依存関係を見いだした事で、より強固に、世界に自分は一人(二人)孤独にある、という錯覚を強める依代を手にしてしまった(親子ごっこ、と亜美に指摘されるそれ)。そして、9巻末のシーン。手に手を取り合って逃げてしまう、その姿勢は、かつて大河がマンションに閉じこもっていたように、二人して世界に閉じこもる、関係からの逃避の再現にすぎなく見える訳で。
そこで10巻ですよ! という展開が待っていることを切に祈っているのだが。
y_arim氏が言及する事になった元増田氏の一文、

みんなさ、自分ひとりで解決して乗り越えちゃうんだよな。

登場人物たち。

そこにさ、オラクルは必要ないわけよ。

まぁ、オラクル=父性的な導き手の存在が必要かどうかと言えば僕にはよく分からないが、そういう文脈からこの作品を見るならば、オラクルの不在*4があってこそそこへの希求があり、竜児と大河の擬似的な親子関係が成立してしまってきた。序盤〜中盤の、互いの恋路を応援すると言う茶番はその関係故に起きたたちの悪い冗談のようなものだ、と読む事もできるのではないかと、今思ったw
ながながと続く竜児と大河の半同棲生活(しかも親付き)が壊れないのも、それが男女関係でなく(さらに家族ではなく一歩進めて)親子関係の模倣であったからだし。

  • 元増田氏:「現代における人間関係の希薄化」「共同体の崩壊」
  • id:y-arim氏:「現代における親子関係の希薄化」「家族共同体の崩壊」

とそれぞれ読み解いているけれども、その流れで言えば『とらドラ!』で描かれているのは親の不在では無いか。父親が不在であるが故に母親もまた機能不全に陥っている竜児の家庭では、竜児が自らの父親と、母親の伴侶を演じようとして結局失敗する。母親もまたそれ故に、子離れを促せるだけの母親の役割を背負えずにいる。大河に至っては父も母も男女としてすら失敗しており、親の役目すら理解していない。故に、子らが理想の親を演じざるを得なくなり、また、親離れの機会すら失っている。これはそういう物語かと。
うわ、なんか俺、偉そうだよ気持ち悪いよ!
コホン。

とにかく、しかしそこで、竜虎相立つとか気持ちの悪い事を*5言っていた二人も、ようやく男女だったんじゃん! って気付いて、竜虎相食み合い、一つになって世界の再生産に向かうかと思えば、そこで「小さな恋のメロディ」ですよ。逃避かよ!
と言う訳で、目下興味関心は10巻なのであります。この落とし前どうつけてくれるのだろうか。なにかこちらの予想をぶちこわす形で(しかも超王道な)結末がつく事を祈っている*6訳です。
で。
最後に。一番心配しているのはもちろん亜美ちゃんの事ですよ。
だってさ、一番孤独じゃん、亜美ちゃん。自分も相対化出来ていて、周りの関係も読めていて、大人にならざるを得ず、一番上手に大人になったはずだった亜美ちゃん。まだ子供だから、憎まれ口とか、いらない一言とか、そういうこぼれ落ちる亜美ちゃんの叫びもまた、誰も拾えて無いじゃん。こんなにはっきりと、私を見て、私を助けて、って叫んでるのに(そういう意味では委員長の相似系なのだが)、それこそ、亜美ちゃんこそ、自分で何とかならないと何ともならなそうに見える。どうするんだろう。独身(30歳)の出番だと思うのだが、どうか。

しまらず済まん。この稿ここまで!

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とらドラ〈2!〉 (電撃文庫)

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とらドラ! (5) (電撃文庫 た 20-8)

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とらドラ!〈7〉 (電撃文庫)

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とらドラ!〈8〉 (電撃文庫)

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とらドラ!〈9〉 (電撃文庫)

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*1:まぁそのままっす。飲んで書いてます。

*2:この親父自体が、親が持つべき資質を決定的に欠いていて、そう、たとえば「ダンス・ダンス・ダンス」(村上春樹/講談社)登場するエキセントリックな霊媒少女の母親に酷似した無責任な大人の下位互換キャラになっている。

*3:あるいは二人でガキでもこさえて力合わせ幸せになる、という展開も無くはないだろうが、その可能性はほとんどないだろう。

*4:大河の父親への期待は何重にも裏切られるし、竜児の父親はそもそもお星様になっていることになっているし、力を貸してくれてしかるべき竜児の祖父はやっちゃんと断絶してしまっており、ここでも導きて足り得ない。

*5:お互いを高め合いたいの、とかよく恋人たちが言いますよね。自分にもそんな覚えが無くもないですが。

*6:大切な事なので二度(ry