蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

とらドラ!10巻(竹宮ゆゆこ/電撃文庫 アスキー・メディアワークス)

☆☆☆☆☆
【ネタばれ含みます】

とらドラ10! (10) (電撃文庫)

とらドラ10! (10) (電撃文庫)






とらドラ!が遂に完結。公称の発売日であった昨日入手、今日、一気読みした。うまい具合に家族がおらず、集中して読書出来てよかった。途中何度かぼろぼろ涙を落として読んだ。ラノベ恐るべし。竹宮ゆゆこ恐るべし。ニコ動の「もるぜぇ〜」MADからアニメ、原作へとシフトしてはまった作品だったが、件のMAD作者には本当に感謝しなくてはならない。
余談だが、そのMADはいろいろ引っかかって削除されてしまった。しかしこうして売り上げに貢献している訳で...。いわゆるオタクやマニアの人たちに限っては、好きなものにはきっちり対価を払っていると僕は勝手に思っている。深夜アニメなど、DVDの売り上げで存続しているようなもので、MAD動画などはなんだかだいって、売り上げに貢献してるんじゃないかなぁ。買う気のない人は、MADや流失ものの動画を見ようと見まいと、金は払わないからね...。
さてさて。10巻が素晴らしいのは、竜児と大河の関係を二人の不幸な家族関係をひっくるめて幸せなゴールに結実できた点。9巻のラストで手に手をとって母親から逃げ出す竜虎の姿を見て、僕は次のような感想を書いている。

しかしそこで、竜虎相立つとか気持ちの悪い事を*5言っていた二人も、ようやく男女だったんじゃん! って気付いて、竜虎相食み合い、一つになって世界の再生産に向かうかと思えば、そこで「小さな恋のメロディ」ですよ。逃避かよ!

さらに追って、10巻では再度親と対決することになるだろうと考えていたのだけど、実際はそれを上回る内容だった。逃避では答えにならないという事は物語の進行上誰の目にも明らかだったと思うのだけど、何も捨てない事を目論ませ走らせた事には正直驚いた。それは大抵の場合、現実に阻まれて無理な事だからだ。あるいは、無理とあきらめている事だからだ。竜児はまっすぐだった。大河も熱く信じた。逃げずに、皆を含め幸せになろうとした。
それは子供の理論であるようにも思う。
何もかもを含め幸せになる事は出来ない。大抵は無理だ。皆どこかで、何かを捨て、妥協し、あるいは逃げて日々を生きている。そこに小さな傷や、後悔や、偽りの妥協をもって、見て見ないふりをして、生きている。そうでないと生きていけないと思っている。
自分も、そうだ。大河の家庭環境には、共感する所が多いし、竜児と母親の二人の生活も、父と送った日々に近いものがあって、共感する。家族が家族であるというだけで、親子が親子であるというだけで、まるで免罪符のように特別な関係であるとされることに強く反感を覚えるし、そういった意味では家族には幻滅している。それでも、時にそうした消極的な自分の態度に嫌気がさす事があるし、罪悪感もある。自分は無責任だとも思う。そうして、小さな幸せの中に引きこもっている自分を、また正当化してみたりする。不幸を解消する事は自分には無理であり、仕方ないと嘘をついてみたりする。そんなループがある。
そんな自分がいるので、よけいに感じる所が多かったのかもしれない。9巻のラストから、逃避行を試みた竜児と大河であったが、竜児はこれでは何かが違うと悩み続ける。その何か、結局親と同じように、自分もまた同形の不幸の再生産をしているという感覚、そのことに気付いた竜児が逃げずに不幸の解消へ向かい、同様に大河にもまた、不幸を回避するのではなく解消する事を選びとらせる、その流れに胸が詰まるようだった。不幸の源に遡り、断絶していた関係を再接続させる事を選んだ勇気にうたれた。正論を述べる事は恥ずかしい。それは実行が難しかったり、あるいは実現をあきらめているからだ。
竹宮氏は、しかしここで正論を述べる事をためらわなかった。複雑に壊れた家庭環境にいる二人に、そこからの逃避ではなく、その再構築を実現させてしまった。それも、ただひたすらに、主人公らの胸に燃える「愛」(わぁお)故に。ライトノベルは昔でいうヤングアダルト向け小説ととらえてよいと思うが、その意味でとらドラ!は王道を突き進んでしまった。それは人生にとって大切な事、愛や友情や信頼といった、時に実現が難しい「善」とされる事象への希求であり、態度であり、意思だ。絶望があっても、人生は生きる価値のあるものであると確信させる意思だ。
いろいろ心配していた亜美ちゃんも、心のガードを一つ外して、失恋はしたもののより強固な友情を得て一安心。まるおくんも(僕は北村が大好きなのだが)一向に先輩をあきらめた気配がないし、みんな前向きにもがいているその姿は、やっぱり、いいんだよなぁ。ビターな青春小説ももちろん多く存在するけれど、でも、やっぱり希望が欲しい。恥ずかしいほどのまっすぐな善が欲しい。
まだまだ人生捨てたものじゃないよな、って、四捨五入すると40になるおっさんが夜一人涙ぼろぼろながしてラノベ読んでるのもちょっと気持ち悪いけれど、まぁ、とにかく、良い読書でした。とらドラ!、文句無しの五つ星です。