蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

青山ブックセンター閉店

青山ブックセンターが取次の栗田出版による破産の申し立てにより閉店してしまった。(http://www.asahi.com/national/update/0716/032.html、ほか2chのスレ(http://money3.2ch.net/test/read.cgi/bizplus/1090044968/1-100)など。)
なんとも残念なことだし、栗田の債権者としての立場も分からないではないが、文化的損失は大きい。書店の大店舗化、無個性化がどんどん進んでいるが、青山ブックセンターははっきりとした個性を持っていて、魅力の大きな書店だった。出版不況は、出版一般を、どんどんただのビジネスに堕落させていっている。個性のある書店は消えていき、個性はないが売れ筋のそろった大型店舗が幅を利かせている。しかし実際のところ、そうした大型店舗が、書籍という実はかなり消費者のニーズの幅の狭い、ニッチな市場の首を絞めているとも言えるのではないか。もちろんといっていいか、大型店舗は僕も好きだ。その独特の明るさと匂いのなさにひかれることもある。でも、そうした書店で満たされるのは、例えばPCの参考書の豊富さとか、そうしたきわめてビジネスライクな部分で、書店の棚を見てこちらが刺激されて、興味が広がり、知識的興奮を味わえると言った歓びではない。つまるところそれは、必要を満たすためだけの消費でしかないのだ。たとえば鎌倉駅西口にある「たらば書房」の棚を見てほしい。奥行きが7メートルくらいの、そんなに大きな店でないが、入り口を入ってレジを抜けた左奥の棚は、経営陣の趣味の本、思想書のたぐいでぎっしり埋まっている。正直、売り上げに貢献する棚とは(一見して)思えない。しかし、経営が苦しくなったときにはさらにその棚が充実したという逸話もあり、この店の性格を語っている。よく見れば、店の中央右側を占めるいわばメインの雑誌棚も、美術書や文化系の雑誌でほぼ埋まっている。漫画は幅1メートル程度の棚1本プラスレジ横の1本で、まさにおざなり、という感じ。見た目は地味な駅前の普通の本屋なのだが、めちゃくちゃに個性的な店なのだ。聞けば経営陣3名は皆某書店を辞めてこの書店を買い取ったと言う。あのね、書店って、こういうのが理想だと僕は思うのですよ。つまらない棚は、もういらないよ。ツタヤは便利だけど、街道沿いでがんばっていればいい。どうせ売れない売れないって売れ筋しか置かない、取り次ぎの箱の目立つ奴しか並べない書店ならいつ潰れたっていい。全く惜しくない。でも、面白い本が、書店員の思い入れがびんびん響く棚が並ぶ書店が潰れるのは本当に心苦しい。無念だ。今回のことで、自分の中での栗田株は激落した。いきなり破産申し立てするなら、せめて1店舗残して残りの5店舗を閉鎖するなりすればいい。いや、あるいはそうした交渉の果ての出来事だったかもしれないが。実に残念だ。栗田からは正式なコメントが欲しい。