蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

束縛?サニー・ランドル・シリーズ(ロバート・B. パーカー著、奥村章子訳/早川文庫)

★★半
アメリカ人の性欲にうんざり。パーカーの語り口は相変わらず軽妙で、最近では全く力が入っていない、数十年活動を続けたバンドのような安心できる軽さがある。さすがに、初期の作品のようなハード・ボイルドなタッチを貫くのはお年寄り(失礼か)には辛いだろう。スペンサーシリーズが最近ご無沙汰なのも、朝鮮戦争に従軍したほどの高齢者となってしまったスペンサーを主人公にがんばり続ける辛さというものがあるはずだ。今いくつよ、スペンサー。(そしてスーザン。)
性の解放とかいうと、いつの話よそれ、と言われそうだ。しかし、こういう小説を読んでいると、つくづく文化の違いを感じざるを得ない。男女の相性の大きな事項としてセックスが語られ、実行される。そりゃ勿論あるだろうが、その持ち出し方が、なんかこう明け透けすぎて妙に鼻にかかる。例えばかみさんに、きみはベッドの上でも最高だ! とか、いいますか? まぁ、これは小説の主題とは関係のないことなのだけど。
筋書きは、人気女流作家が別れた旦那にストーキングされており、主人公の探偵サニー(ことソーニャ)は彼女を助けることになる。問題の元旦那は精神科医で、その立場を利用して患者の女性たちを(治療と称して薬物を投与し、)精神的に支配し、友人たちと輪姦していた。潜入捜査(?)を試みたサニーにもやがて魔の手が...。といったところ。治療室で、薬物を投与されてぐったりした女性(着衣)を、全裸の男性3人が取り囲んでいる図ははっきり言って爆笑もの。AVじゃないんだからさ...。とはいえ、早大の例のサークルの事件などもあるし、冗談ごとではないか。得体の知れない知能は高い相手につきまとわれる嫌らしさは文体が軽いなりに伝わってくる。うん、きもちわるいぞ。
サニーが自分を確立しようとしているが、やはり男性作家から見るヒロインで、結局男性に依存する、その依存の仕方の雰囲気がやっぱり男性的でいやだ。どうにもすっきりしない。女性を主人公のシリーズ物ということで、アメリカでの受けはそれなりにいいようだけど、どうせ女性に夢を見るならばジェッシィのシリーズのように男性の側から書いてほしい。まぁジェッシィにしてももうおなじみのワンパターンなのだが、まだどこかに昔の西部劇のようなにおいはあって、それはそれで悪くない。
ということで星二つ半。『失投』のあたりの、ドライな感じが恋しいなぁ。



束縛?サニー・ランドル・シリーズ
ロバート・B. パーカー, Robert B. Parker, 奥村 章子

発売日 2003/04
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