蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

神様のパズル(機本伸司/角川春樹事務所)

★★★★
久々のSFヒット! 面白い。2年も前の新刊だが、なぜ今まで読まなかったヲレ! な一冊。
人工的に宇宙を作ることは可能か。16歳の天才少女と、卒業を間近にした普通の物理学科生がその謎に挑む訳だが、エロなし、暴力なし、理論それなり、青春の悩みてんこ盛りな設定で物語は進む。ありがちなキャラクタ設定も、結構ベタな展開も、ジュブナイルとしてはむしろ上質。「自分はなぜあるのか」という普遍的な問いに、宇宙の存在そのものまでをも貫く理論を求めていくが、果たして導きだされる答えは、問いへの回答として十分なものであるのか? というあたりが読みどころ。
「物理は間違えない」と文中で言い切られるが、科学が語るのは常に対象についてであって、存在しないものについてはいかなることも語れない。宇宙が「無」から生まれたのであれば、その「無」を存在させないことには語ることができないはずだ。本書では、宇宙が「無」から生じたのであれば、その辺にいくらでもある「無」から宇宙を人工的に作り出すことは可能ではないか、というアプローチで話が進む。しかしここで語られる「無」、例えば「皐月」の章の終盤で語られる「“無”は“無”でも、十次元以上の“無”−−。つまり、ここらへんの“無”ではないこと」、この「無」は果たして「無」であるのか? 僕は宇宙のでき方よりも、むしろこの「無」を問いつめてほしかった。「無」が成り立つ(この表現自体が既におかしい?)前提としてその基盤になる「次元」の存在を許してしまっているとしたら、それは既に「無」ではないのではないか? 数学にしろ、「0」の発見が画期的だったのは、まさに「無」を実在の世界に導入したところにあるからだろう。それ故に、「0」はいまだに問題を多く含んで論ぜられている訳だ。「無」を問うSF、そんなのはないかな。って話がずれてるぞ。
本作で素晴らしいのは主人公のあまりの普通っぷりで、惚れた女の子のエロコラージュを作ってたり、理系の学生のくせにぜんぜん分かっていなかったり、妙にふがいなかったり押しが弱かったり、感情移入しやすいことしやすいこと。途中天才少女との議論に引っ張られて一時的に知能アップしている発言も見られるが、とにかく最後まで普通である。変なヒーローにもならない。大きく道を踏み外さず、淡々と生きている。この辺が素晴らしい。とにかくお勧めなのだ。
造本的には、カヴァーが結構ヲタっぽいので改善してほしい。また、これは実に文庫向き。ハードカヴァーじゃ若い人は買えないよ。文庫に入れて低価格化して、もっと多くの人に読んでほしいぞ。



神様のパズル
機本 伸司

発売日 2002/11
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