蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

アンダーカレント(豊田徹也/講談社)

★★★★★
アフタヌーンにて連載をしていた長編の単行本化。昨年NO.1コミックといってよいすばらしい出来。これは映画化されるかもしれない。いや、無理か。とはいえ帯のコピー、谷口ジロー氏の「今、最も読まれるべき漫画はこれだ!」に嘘は無い。
主人公は銭湯を営む女性。夫が失踪して以来休業していた銭湯を再開するところから物語は始まる。銭湯を助けるおばちゃん、温かな隣人たち、新しく雇った住み込みの釜炊き、ファンキーな探偵などに囲まれながら物語が進行。さばさばとした性格に見える主人公だが、自分の生への疑問を自覚できないまま抱えている。自明のものとしてあった世界が実はさまざまな不安に満ちており、その空白が静かに満ちていく...という感じかしら(もんたま氏ぜひ一読して解説して頂戴、あたしに作品解説は無理)。
つまるところ主人公(とその傍らにいる釜炊き)の世界の喪失と再生の話なんだけれど、どこまでも静かな物語が心に染みる。画作りも丁寧で、読みながら自分の写真のフレーミングのことなどぼんやりと考える。余白というか空白のある画が好きなのだけれど、アンダーカレントでは主人公の中にある空っぽな気分が、そのままコマに広がっていて、読み進めるうちにどんどん染み込んでくる。うまいなぁ。連載もよかったが、一冊通して読むとより味わいが増すタイプなので、ぜひ入手して欲しい。こういうマンガを世に出すことの出来る講談社にも感謝。なお、タイトルのアンダーカレントは、Bill EvansJim Hallの同名のアルバムのジャケットからインスパイアされたらしい。確かにすごいジャケット。

豊田徹也(とよだてつや):ココ(wikipedia)を参照。
アフタヌーンの連載が終了したときは、当分は描かない、というようなコメントを残していたが、ぜひ次の作品を残して欲しい。

アンダーカレント  アフタヌーンKCDX

アンダーカレント アフタヌーンKCDX


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