蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

木村伊兵衛

ETV特集にて木村伊兵衛の番組(第130回「木村伊兵衛の13万コマ 〜よみがえる昭和の記憶〜」ETV特集 3月18日(土))を見る。1時間半にわたる力作。出演者の一人が大好きな荒木でうれしい。出演者は川本三郎荒木経惟田沼武能、テッサ・モーリス・スズキ、それから飯沢耕太郎となかなか豪華なラインナップ。荒木の優れたところは平明な言葉でしっかりといいたいことを伝えるところで、木村伊兵衛のよいところ、優れたところが、一番よく伝わってくる。テッサ・モーリス・スズキとのチャット取材も面白かったが、彼女の言葉はさすが西洋の論客、是か非かを二分せずにはおれない文化圏からのものであると感じる。「木村は人間性の表現に逃げ込むことで、戦争を直視することを避けたのではないか」という厳しい言葉に軽い反感を持つのは、こちらの甘えだろうか。しかし戦時下のつらい時期に、その中にも存在する温かな人の生活や表情を追う、その点こそが木村の特徴であり、つらさや厳しさを愚直に表現する不粋さを避けたものではないかと、僕は思う。そういう仕事はむしろ土門の専門だろう。しかしそもそも「粋」だなんてもの自体が、戦争となじむものではない。木村には、苦労とか、だいいち戦争自体が似合わないよ。変な言い方だが。とにかく、番組としては永久保存版、録画して保持するにふさわしい内容をもつもの。NHKならではの無駄な修飾の少ないよい番組だった。