蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

春季限定いちごタルト事件(米澤穂信/創元推理文庫)

★★★
高校へ上がるとともに「小市民」たろうと誓い合った主人公小鳩君と小佐内さん。しかし二人の前に事件は絶えず、心ならずも非小市民的な活躍をしてしまうのであった。帯のキャッチによれば「そしていつか摑むんだ、あの小市民の星を」ということなのだが、「いつか」とあることから明白なように、理想の小市民への道は遠いのである。小市民たろうとする二人の努力そして態度はいささか鼻につくし、小市民のなにがどう理想的なのか全く分からないが、そこはそれあまりにも小市民から遠かった二人にとって、目立たず出しゃばらずひたすらにおとなしく暮らす小市民は希望の星なのであった。普通たろうとする事自体は分からなくもない、しかし普通たろうとすればするほど普通でないことは目立ってしまう。そのギャップが読んでいて楽しい。いいじゃんばりばりに切れる二人でもーと思うけど、そうもいかないのだ、本人たちには。
短編集に見えてちゃんと全ての話が繋がっていたり、芸も細かい。次第に見えてくる主人公たちの本性もまた十分に探偵していておかしい。買いの一冊である。続編も読まねば。

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)