蝸牛日記(Pseudomenos版)

嘘ばかりの日記です

死都日本(石黒 耀/講談社ノベルス)

★★★★
面白い! 今年読んだノベルスの中でも群を抜いて面白かった。九州南部から北部に続いて眠る火山帯。それが活性化した場合、九州は、そして日本はどうなるかというシミュレーション小説。サスペンスというような心理的な怖さは実はあまりなく、その辺の書き込みについては甘い部分もあると思うのだが、巨大火山が噴火するといったい何が起きるのかということについては実に詳細にかつリアルに描いていて、読み始めると止めることが出来なくなる。噴火に対して、その周辺地域だけが大変なのね、という理解でいたが、いやとんでもない、地球規模での災害とまさに天変地異をもたらすそれは恐ろしい現象なのだった。科学がいかに進んだかといって、噴火そのものに対しては何もできない、手の出しようがないというところが、自然の力の雄大さというか途方もなさを語っていて、恐怖を通り越して一種の諦めをもたらす。なんといってもこの小説、今年読んだ小説の中で最もたくさんの死者を出している。これに匹敵する被害者の数を出す小説というと、グレッグ・ベアの『天空の劫火』クラスでないと。なにしろ、一瞬で街が滅び、数万人の犠牲者が出るのだ。しかも小説内で描かれるのはわずか数日のことなのである。
分厚い一冊だが、まったく退屈もせず一気に読み通せる力強く素晴らしい本だ。メフィスト賞を取りながら、ノベルスでなく単行本で先行して出版されてしまったことが惜しく感じる。これはノベルス版のほうが(携帯性のよさや入手の手軽さから言って)明らかに売れるないようだと思う。重版を重ねていって欲しい。

死都日本 (講談社ノベルス)

死都日本 (講談社ノベルス)